風営法の歴史と今

目次
0.はじめに
Ⅰ.風俗営業等取締法のこれまでの改正経過
Ⅱ.ダンスを規制する風営法とは?
Ⅲ.風営法をどう変えたいのか

0.はじめに

私たちはいま、「ダンスをさせることを法律で規制するのはおかしい」という声をあげています。
その法律は風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)といいます。
風営法は過去に何度も改正されてきました。

改正の際、国会で「国民の基本的人権と警察責務との関係及び法形式等について継続的に調査、検討を行う」
(101国会・参院附帯決議)として、国民の権利を守る立場から、将来見直す可能性に言及せざるをえないほど問題視されてきました。

風営法という法律がどのようにつくられたのか、「法律を守る」という理由で行われている警察の過剰な取締りの何が問題なのか―明らかにしたいと思います。




Ⅰ.風俗営業等取締法のこれまでの改正経過

現行の風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)は、風俗営業取締法として、昭和23年(1948年)7月 10日第2国会において制定されましたが、今日までに30回以上の改正を経て現在に至っています。

戦前は、現行法で規制を受ける営業に加えて、広く風俗に関する営業が、庁府県令に基づき警察によって取締りが行われていました。すなわち、現行法では風俗営業の範囲外とされている旅館、公衆浴場の営業についても公安、風俗の見地ばかりでなく、衛生上の見地からの規制も行っていたのです。

前記の庁府県令は、新憲法の制定(昭和22年(1947年)5月3日)に伴い失効することになりましたが、風俗のびん乱の問題は社会的にも大きな問題であったため、戦前には広範囲な営業に対して行使されていた警察の権限を主に「風俗犯罪の予防」という見地から売春、賭博等に着目し、当初は、次の三種類の業種についての規制が行われました。

1. 待合、料理店、カフェ―その他客席で客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業
2. キャバレー、ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業
3. 玉突場、まあじゃん屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業・・・・・を風俗営業として、これらを規制するため本法が制定されました。

この「風俗犯罪の予防」という考え方は、当時から相当広義に解釈することが適当であるとの考えが表明されており、例えば、「周囲に風地上好ましくない影響を与えないため学校等の周辺等の営業の場所の制限を都道府県の施行条例で行いえること」、「接客婦の年齢を何歳以上と制限することが都道府県の施行条例で行えること」などの考えが表明されており(第2回国会衆議院 治安及び地方制度委員会 昭和23年6月1日、3日の政府側答弁参照)、現行の風営法の考え方の骨格は、この昭和23年(1948年)の法律制定当初からほぼ一貫していると言えます。

その際、「ダンスホールが買売春の取り引きに使われている」との認識から、「ダンスホール=風俗営業」とされ、「ダンスをさせること」が規制の対象となってきました。

その後、30回以上の改正を経て、その間に本法の規制対象となる営業の範囲が拡大されてきました。(一部、規制対象業種が削除、除外される改正もおこなわれています。)

主な改正経過は、次のとおりです。

(1) 昭和29年(1954年)の改正
風俗営業に新たに「パチンコ屋」を加え、この営業許可には、有効期限を設け、許可の更新をうけさせることにしました。

(2) 昭和30年(1955年)の改正
玉突場(ビリヤード)は、「健全な室内スポーツとして運営されており」、風俗営業取締法の対象から除外されました。
http://www.npa.go.jp/pdc/notification/seian/seikan/seikan19550715.pdf

(3) 昭和34年((1959年)の改正
深夜営業を営む飲食店が、風俗事犯や少年非行の温床として、問題があったため、規制の対象を風俗営業だけでなく、新たに深夜飲食店営業にまで広げ、そのための法律の題名も「風俗営業等取締法」と改められました。
また、風俗営業は従来、前述のように三種類に分けられていましたが、この改正においてはこれを次の七種類に分類拡大し規制されることになりました。

1. キャバレーその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客席で客を接待をして客に飲食をさせる営業
2. 待合、料理店、カフェ―その他客席で客の接待をして客に遊興又は飲食させる営業
3. ナイトクラブその他設備を設けて客にダンスをさせ、かつ、客に飲食をさせる営業
4. ダンスホールその他設備を設けて客にダンスをさせる営業
5. 喫茶店、バーその他の設備を設けて客に飲食をさせる営業で、総理府令で定めるところにより計った客席における照度10ルクス以下として営むもの
6. 喫茶店、バーその他の設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見とおすことが困難であり、かつ、その広さが5㎡以下である客室を設けて営むもの
7. まあじゃん屋、パチンコ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業

(4) 昭和39年(1964年)の改正
昭和34年の法改正後も増加を続けていた少年非行もの深刻化を背景として、深夜飲食店営業に対する規制強化、具体的には、「営業者の資格、営業の場所、営業時間等について、都道府県条例により、必要な制度を定めることができること」、「年少者に対する禁止行為」「行政処分に対する整備」などを中心に改正が行われました。

(5) 昭和41年(1965年)の改正
この改正は、議員立法により行われましたが、風紀上、法律上に問題の多かった個室付浴場業及び興業場営業(ストリップ劇場、ヌードスタジオ)を規制対象とし、個室付浴場については、営業禁止地域及び営業停止の処分の規定を、興業場営業については、刑法174条又は175条の罪を犯した場合に営業停止の処分の規定を設けることとしました。

(6) 昭和47年(1972年)の改正
当時、急激に増加してきたモーテルが、性の享楽場所として利用され、これにより地域社会の清浄な風俗環境が著しく損なわれ、また密室的な構造のため犯罪が増加するなどの問題が生じていたため、「個室に自動車の車庫が個々に接続する施設であって、総理府令で定めるものを設け、当該施設を異性を同伴する客の宿泊または休憩に利用させる営業」を「モーテル営業」として定義づけ、場所の規制等を盛り込み規制対象としました。

(7) 昭和59年(1984年)の大幅改正

この改正は、名称の変更(風俗営業等取締法から風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)に加え、条文を8ケ条から51ケ条とふやしていることから全面「改正」に等しいものです。
内容も「規制及び業務の適正化」と言う名で、警察権限の強化・拡大、風俗環境を悪化させる性産業の「公認化」、営業の自由や基本的人権に対する侵害という重大な問題が含むものです。そのために、中小業者団体をはじめ、日本弁護士連合会、教職員組合、風俗営業関連団体、「売春問題を取り組む会(婦人団体・宗教者団体)」などの広範な団体が反対し、粘り強い国会要請行動、地域での署名運動に取り組む中で、「改正」はされましたが、「勝手な判断を許さないように歯止めをかける」成果もつくりだしました。「歯止め」の特徴は次の通りです。

●各界の広範な運動による「歯止め」

(1)警察権力の拡大策としての最大のねらいであった「立入検査」で、「帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる」の項目を削除させ、この条(法第37条)を第1項の報告、第2項の立入りに分けさせ、「立入りの行使はできる限り避けることとし、なるべく公安委員会が求める報告又は資料の提出によって済ませるものとする」(第101国会附帯決議)とさせました。これは、「改正」前より前進した内容となっています。

(2)参議院で異例の「決議」の採択を得て、これに基づき、警察の行き過ぎチェックや法律の「形式等」について調査検討を行う「風俗営業等に関する小委員会」を発足させたことです。

●「風営法成立」(昭和59年)にあたっての日本弁護士連合会 声明

「当連合会は、さる第101回国会に上程された『風俗営業等取締法の一部を改正する法律案』の審議にあたり、この法案は、拡大強化される警察権のもとで、憲法の保障する人権を著しく侵害する事態をもたらす恐れがあることを訴え、国民の広範な論議をふまえて、国会で慎重かつ十分な審議が行われるよう要望した。幸いにして当連合会の要望は、関係各方面で真剣に受けとめられ、論議を広げることができた。」(同連合会ホームページより抜粋)http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/1984/1984_6.html

●風営法の抜本改定に伴う「第101 国会附帯決議」の特徴

http://www.police.pref.wakayama.lg.jp/kunrei/seiki/seiki23.html

「風俗営業等取締法の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(衆院1984 年(昭和59)7 月5 日)
「風俗営業の規制等の改善対策確立に関する決議」(参院1984 年(昭和59)8 月7 日)

(1)本法の運用にあたっては、表現の自由、営業の自由等憲法で保障されている基本的人権を侵害することのないよう慎重に配慮すること。(衆院・二)
(2)本法に基づく政令等の制定及び本法の運用にあたっては、研究会等を設置し、地方公共団体の関係者を含め各界の意見を聞くこと等により、法の運用に誤りなきことを期すこと。(衆院・九)
(3)警察職員の立ち入りにあたっては、次の点に留意して、いやしくも職権の乱用や正当に営業している者に無用の負担をかけることのないよう適正に運用すべきであり、その旨都道府県警察の第一線に至るまで周知徹底すること。(衆院・十)
(4)立入りの行使はできる限り避けることとし、なるべく公安委員会が求める報告又は資料の提出によって済ませるものとする。また、当該報告又は資料の要求に当たっては、今回の法改正の趣旨にかんがみ、風俗関連営業の規制の目的に重点を置いて行うべきものであり、特に風俗営業については、その内容、種類及び回数について基準を明らかにし、行政上の指導、監督、助長のための必要最小限度のものに限定すべきであって、犯罪捜査の目的や他の行政目的のためにこの規定を用いてはならないものとする。従って、正当に営業している者に無用の負担をかけることのないように適正に運用すべきであるとともに、本法の運用に関係のない経理帳簿等を提出させることのないようにすべきである。(参院・十)

●「風営法等の解釈運用基準」でも警察行政に歯止め

http://www.pref.oita.jp/keisatu/kouhou/jyouhou/data/03/03/bh3.pdf

(2008 年(平成20 年)7 月10 日大通達甲( 生企) 第7 生活安全部長から本部各課・所・隊・室長、警察学校長、各警察署長)

(1)「風営法の解釈運用基準」(第31)は、「立入りは、直接営業所内に入るものであるため、営業者にとって負担が大きいので、報告又は資料の提出で行政目的が十分に達せられるものについては、それで済ませることとし、この場合には立入りは行わない。」としています。

(2)「風営法の解釈運用基準」(第31)は、「立入り等は調査の手段であり、その実施に当たっては、国民の基本的人権を不当に侵害しないように注意する必要がある。」とし、「行政上の指導、監督のため必要な場合に、法の目的の範囲内で必要最小限度で行わなければならない。」、「いやしくも職権を濫用し、又は正当に営業している者に対して無用な負担をかけるようなことがあってはならない。」と定めています。

以上、述べたように、国会の場や運用上のルールで、はっきりと過剰な取締りへの「歯止め」がされているにもかかわらず、近年の取締りの状況は、明らかにこうしたルールを逸脱したものといわざるをえません。


Ⅱ.ダンスを規制する風営法とは?

風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の条項では、「客にダンスをさせ」る行為について「用語の意義」という条文があります。

法の第二条(用語の意義)の1号のキャバレー(ダンス+接待+飲食)、3号のナイトクラブ(ダンス+飲食)、4号のダンスホール(ダンス)が、「ダンス」に係る条項です。
 
ダンスについての具体的な許可条件としての規制の詳細は、法律条文ではなく、施行規則、施行令、内閣府令等で示されています。

例えば、「客室が66㎡以上でその5分の1以上が踊り場面積としなければならない」(施行規則第8条・構造及び設備の技術上の基準)とか、「電球の明るさが5ルクス(10ルクス)以上でなければならない」(施行規則第8条)、「営業時間は住居地域で午前0時まで、近隣商業地域で午前1時までの制限」(施行例第8条・風俗営業の営業時間の制限に関する条例の基準)などがあります。

また、「設備の変更は基本的に事前に警察への申請と承認が必要である」(内閣府令第2条・構造及び設備の軽微な変更)等、詳細に定められています。
  
◎したがって、ダンスに係る営業について、法律上は、上記の第2条に基づく施行規則、施行令、内閣府令等の許可条件をクリア―した1号のキャバレー(ダンス+接待+飲食)、3号のナイトクラブ(ダンス+飲食)、4号のダンスホール(ダンス)のみの営業が認められるのであり、それ以外の深夜酒類提供飲食店におけるダンス行為などは、基本的にすべて禁止されています。

「許可を取得すれば、ダンスに係る営業は自由にできる」と思われる方も少なくないと思います。しかし、許可をとりたくても「客室面積が66㎡(20坪)以上」なければ申請そのものができません。また、条件が整って許可書を取得した場合であっても、住居地域なら午前0時、近隣商業地域でも午前1時には営業を閉じなければ罰金、営業停止処分等があります。

◎風営法は、ダンス(法第2条)以外の「深夜における飲食店営業の規制等」(法第32条)でも、「不特定多数の客に歌、ダンス、ショウ、演芸、映画その他の興行等を見せる行為」や「生バンドの演奏等を客に聞かせる行為」「のど自慢大会等客の参加する遊戯、ゲーム、競技等を行わせる行為」を禁止しています。「法の解釈運用基準第23」の「深夜遊興の禁止」の項で、「営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じ(遊興)させる行為」は、禁止規制の対象とされています。

他方で、「カラオケの使用等については、スポットライト、ステージ、ビデオモニター又は譜面台等の舞台装置を設けて不特定の客に使用させる行為、不特定の客に歌うことを勧奨する行為、不特定の客の歌をほめはやす行為等が『客に遊興をさせること』に当たるが、不特定の客が自分から歌うことを要望した場合に、マイクや歌詞カードを手渡し、又はカラオケ装置を作動させる行為等はこれに当たらない。」(解釈運用基準第23)としています。
 
深夜酒類飲食店(スナック等)で「不特定の客が自分から踊ることを要望した場合に、ターンテーブル装置を作動させる行為等」は、どうなるか。
現行では、「風営法違反」となります。「歌う」と「踊る」その規制の違いは極めてわかりにくいもので、他にも「遊興」「接待」の定義もその基準はあるものの曖昧で整合性のない面があります。
こうした曖昧さが、運用面での弾力性をもたせながら、一方で警察の恣意的な解釈によって、規制や取締りが可能になる危険性をはらんでいます。


Ⅲ.風営法をどう変えたいのか

「許可条件の緩和」ではなく、規制対象から「ダンス」の削除を

私たちは、「風営法の規制対象から『ダンス』を削除してください。」という極めてシンプルで重要な事項を請願の第一項に掲げています。

その主な理由は、以下のとおりです。

① 風営法の第二条の1号(キャバレー)、3号(ナイトクラブ)、4号(ダンスホール)に係る「客室面積や営業時間」など様々な許可・規制条件を変更、緩和させたとしても、「ダンス=踊り」は、規制の対象としては変わらず、ダンス=「少年の健全な育成に障害を及ぼす行為」としての誤ったレッテルを外すことにはならないからです。
それは、請願趣旨で示しているように「中学校の必修科目としてダンスが教えられる一方、未だ法で踊ることを規制する」ことを追認することにもなるからです。

② さらに、風営法第二条の1号(キャバレー)、3号(ナイトクラブ)、4号(ダンスホール)に係る「ダンス規制・許可条件」規定は、この許可を取得しない限り他の深夜飲食店やホール、スナックなどの場で、踊らせることは一切禁止されている条項でもあります。
それは、先述のように、風営法第32条(深夜飲食営業店)に関わってスナックなどで、「不特定多数の客に歌、ダンス、ショウ、演芸、映画その他の興行等を見せる行為」をした場合は、「深夜飲食店における深夜遊興」にあたり風営法違反として検挙の対象状態が続くことになるからです。

私たちの運動は、最終的には立法府である国会での議論に行き着きます。国会では、条文や運用にかかわる細部をめぐって、改正に向けたさまざまな道筋が想定されるでしょう。しかし、利用者もアーティストも経営者も、多くの国民もが一致できる「なぜダンスさせることが規制されるのか」という一点での世論を広げてこそ、国政を動かす大きな力になると考えます。過去には、ビリヤードや社交ダンスが、風営法の規制対象からはずされてきました。今度は、「ダンス」をはずすため、みなさんの大きなご支援をお願いします。